先日、久々に映画を見てきました。話題の「ダージリン急行」。
写真は新宿武蔵野館のエレベーターのドアに描かれていたものです。
タイトルは知っていたものの「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディがコメディに出演しているという意外性ぐらいしか事前知識のなかった私。
さらに同行の友人は「ダージリン急行は、確かインドの高地の茶畑を走っている山岳鉄道だったはず」とダージリン鉄道と混同し、頭の中に茶畑、山岳鉄道・・・のイメージを作りあげていて、それを聞いた私は「かわいい機関車が先頭を走っている映像を見たことがあるわ~」とこれまた機関車トーマスを連想しました。
まさにゾウを触る盲人のような二人の鑑賞!ちなみに映画に登場する列車は、ダージリン鉄道とはまったく関係ありません。
そんな私の勘違いに加え、のっけからインドとは無縁のパリのホテルの一室が登場したものですからもう「なんじゃこりゃ」状態に。
この短編「ホテル・シュヴァリエ」はのちに映画本編のプロローグとわかるのですが、この時点では若い男女が登場し思わせぶりな会話を展開するミステリアスな話でしかなく、ナタリー・ポートマンが美しいという印象のみ。
そしてようやく本編がスタートです。
ビル・マーレイが大きなカバンを持って猛スピードで走るタクシーに乗り駅へ向かうシーンで始まります。緊迫感のある映像に、なにか映画のカギかヒントが隠されているのか?と見逃さないように真剣に見つめていました。が、なんのことはなく、駅のホームを必死に走るも列車に乗り遅れて見送り、そのままフェイドアウト。またも肩透かし。その後ろから走って追い抜きみごと列車に飛び乗るのが、映画の主役3兄弟のひとりです。
ストーリーは父の死をきっかけに、ばらばらになり絶縁してしまったホイットマン3兄弟が、長男の呼びかけで集まり、ダージリン急行に乗ってスピリチュアルな旅をし再び兄弟の絆を取り戻そうというもの。3人は外見もエキセントリックですが、その行動は実にばかげていてまさに珍道中。
長男フランシス(オーウェン・ウィルソン)はバイク事故で大けがをして包帯ぐるぐる巻き状態で仕切りたがり。次男ピーター(エイドリアン・ブロディ)はハの字まゆげにサングラスで、しきりに薬かわりにせき止めシロップを飲み、飄々としながらも精神不安定。短編に登場した3男ジャック(ジェイソン・シュワルツマン)は頑固者。インド女性を誘惑したり、別れた彼女に未練があったり、そしてなぜかいつも裸足。
3人のばかばかしい兄弟喧嘩や口論が延々と続き、そのうちトラブルを起こし、とうとう列車から強制退去させられてしまいます。
その後も旅は続くのですが、そのうちに長男の旅の真の目的が明かされ、インドの人々との交流などのエピソードも盛り込まれ、話は思わぬ方向へ。彼らが抱えていた心の欠落感や家族へのこだわりに気づき、わだかまりを乗り越え、それぞれの新たな道へ踏み出していく・・・と暗示するような結末です。
この映画で印象的なのは旅行中3人がいつも抱えている大きなスーツケースやボストンバッグ。小さなカラフルな動物のマークが描かれ素敵です。ルイ・ヴィトン製、マーク・ジェイコブスのデザインだそうで特注品ですね。兄弟の父親の形見の品で、旅行中ひきずったり抱えたり台車に載せたりして手放さないのですが、最後に列車に飛び乗るときにホームに置いていきます。これは父親への訣別であり自立を象徴する行為なのでしょう。
そして音楽。特別に誂えたという凝った列車の内装を見ても、かなり細部にこだわりのあるウェス・アンダーソン監督。使う音楽もインドらしい音楽からジャンルを超えた多彩な選曲で楽しめました。
総じておもちゃ箱をひっくり返したようなバタバタした感じなのに、なぜかゆるやかな流れがあり癒される不思議な映画でした。
テーマはあるものの、表層的なスピリチュアル志向を揶揄するわけでもなく、あくもでもコメディ。でもインドの風景やゆるい時間の流れを楽しんでいるといつのまにかイライラも消える、そんな温泉1回分ぐらいの効果はありそうで、好きな人にはたまらない映画かもしれません。